犬と猫…ときどき、君
「お前の誕生日のあれさ、ホントは渡す気なんかなかったんだ」
「……え?」
突然話を変えた春希が言いたいのは、きっと私の誕生日のこと。
「たまたま店で見かけて、買う気なんかなかったのに……。でも、お前好きそうだなーとか、勝手に思って」
短くなったロウソクは、もうドロドロに溶けてしまって、
「ごめん」
その小さな炎を少しだけ揺らした後、ゆっくりと光を失った。
知らぬ間に止んでいた雨。
雲間から月の光が伸びてきて、それが静かに春希の横顔を照らす。
さっきまでの風雨が嘘みたいに静かで……。
「ごめんな」
「……え?」
「捨てていいよ、あれ」
よく響く春希の声に、耳を塞いでしまいたくなった。
「俺が勝手にした事だから、あのストラップは捨てていいから」
「――……っ」
その柔らかい声も表情も、きっともう私を忘れるって決心しているから出せるのだと思った。
口に出さなくてよかった。
もちろん出すつもりなんて、毛頭なかったけど。
「……なんで泣いてんだよ」
「ごめん、何でもないから」
“もう少し一緒にいたい”だなんて、バカげたことを、言わなくてよかった。
ゆっくりと顔を上げれば、困ったように顔を顰める春希の表情が瞳に映って……。
春希も同じなのかもしれないと思った。
「あのね」
「ん?」
無意識だったのかもしれないけれど、先に進もうとしていた私を、その言葉と温もりで、何度も引き戻した春希。
「私……」
もしかしたら私も同じように、春希の足枷になっていたのかもしれない。
――そうだとしたら……。
「私今ね、今野先生と付き合ってるの」
「――え?」
それを開放できるのは、私しかいないんじゃないのかな?