犬と猫…ときどき、君

「何してんの?」

「俺もオベンキョウしてから帰る」

フンッと、何故か勝ち誇ったように笑った春希は、手に持っていたロウソクにライターで器用に火を点けると、近くにあったお皿の上にそれを立てる。


そしてそのまま自分の机に腰かけると、本当にテキストを開いてそれを読み始めた。


「意地っ張り」

下を向いたまま、ボソッとそんな言葉を口にして、

「別に、意地張ったワケじゃないもん」

口を尖らせる私を見上げて、クスッと笑う。


どうしてなんだろう。


「座れば? 勉強すんだろ?」


他人に対して感情を出すのが苦手で、いつも人から“取っ付きにくい”と思われてしまう私が、春希の前だとダメになる。


「しないなら帰るぞー」

「……するってば」

「あっそ」


それでも、少し前までは、“感情を面に出さない”という行為が出来ていたはずなのに……何かが変わってしまった。


近寄っていないつもりが、実際は少しずつ近づいていた距離のせいなのか。

それとも、あの星を一緒に見た夜のせいなのか。


分からないけど、最近咄嗟の時に、春希の前でうまく感情を隠せない。


人のことを小バカにするみたいに笑った春希の正面に、不貞腐れながら腰かけて、同じようにテキストを開く。


「何だよ」

「別に何でもないけど」

頬杖をついてテキストを読んでいる春希をチラ見したら、どうやらバレていたらしく、慌てて視線を逸らした。


そんな私を見て、春希はさっきよりも少し優しく、どこか楽しそうに笑う。


「減るから見んな」

「……ワケ分かんない」

「くくくっ!」


春希は、全然平気なのかな?

こんな風に、いつも通りに接してくる春希を見ていると、どうしても考えてしまう。


もうあの夜の事は、なかった事にできたのかなって考えて、胸にチクンと痛みが走る。


――なんて、さっさと逃げ出して今野先生の手を取った私が、そんな事を言える権利もないか。


まだ耳に届いている雨音と、カチコチと同じリズムを刻み続ける時計の音が医局に響く。


そして、ユラユラと揺れるロウソクが、だいぶ短くなった頃……。


「こうしてると、なんか誕生日のこと思い出す」

聞こえたのは、急に口を開いた春希の言葉だった。


「俺の誕生日も、ここでこうやってロウソク点けてたよな」

静かに零されたその言葉からは、いまいち感情が読み取れなくて。


だけどギリギリと痛みだした胸は、もしかしたら、このあと起る何かを感じ取っていたのかもしれない。

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