犬と猫…ときどき、君


「はぁー……」

結局、今日の午後は胡桃の新しい彼氏ネタが話題の中心だった。


部屋に戻った瞬間、疲れがドッと押し寄せて、カバンを床に放り投げると、そのままソファーに倒れ込む。


別に誰も悪くないし、悪気もないし。

ましてや悪い事でもないんだから、こんなに気力を遣う事が間違えてるんだけど。


「くっそー……こたえるなぁ」

アニテク三人娘の話もそうなんだけど、何よりもしんどいのは、明らかに俺に気を遣っている胡桃の様子。

……と、それに対する俺の反応を窺う椎名の視線。


「あいつ、すげー怒ってるし」

胡桃のことが大好きな椎名が、俺を嫌うのは当然なんだけど。


だけど、そんな風にいつも胡桃のその傍にいてくれる椎名に、俺は感謝しないといけないよな。


「さて……」

ゆっくりとソファーから起き上がった俺は、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、また元いた場所に座り込んだ。


さて、何から取り掛かればいいんだろう。

横山先生のところに行って、事情を話して……あとは誰に会えばいい?

松元サンと、仲野もか?

指折り数えながらそのメンツを想像するだけで、自然と溜め息がもれてしまう。


取り合えず最初は横山先生のところに行かないといけないと思うんだけど、一体なんて話せばいいんだ?


あの病院は、横山先生にとっても大切な病院で、いつかは返そうと思っていたのに……。


「あーもー!!」

頭をガシガシと掻きむしったところで、現状が変わらない事は分かってるんだけど。

こんな時、自分がたかだか二十九歳の若造だってことを、嫌というほど思い知らされる。


もう一度天井に向かって大きな溜め息を吐き出して、ゆっくりと目を閉じれば、脳裏に浮かんだのは今日の胡桃の表情。


アニテク三人娘に囲まれて、困ったようにそれをあしらいながら、それでも、時折幸せそうに笑っていたから。


――少しだけ。

本当に少しだけだけど、踏ん切りがつけられる気がした。


もちろん、まだ全然忘れられてなんかいないけど。

それでも、こうして少しずつ、この状態に慣れていけばいい。


そしたらこれが日常になって、当たり前になって……。

また胡桃と一緒にいられる日がくるかもしれないなんて、そんなバカげた考えは消えていくはず。


頭では、そう思うのになぁ。

気持ちの方が、まだ上手く付いていかない。

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