犬と猫…ときどき、君

「今野とどこで待ち合わせ?」

「まだ決めてないけど、今から連絡して……多分、迎えに来てもらう」

「だったらさ、お前のこと今野の家まで送ってくよ」

「は?」

春希が口にしたその提案の意味がよく分からなくて、思わず顔を顰める。

そんな私に「シワよってる」と、言って笑ったあと、春希は言ったんだ。


「今から車で俺んちまで一緒に行って、テキスト受け取って、そのまま今野んち行けば早い。あいつのマンション、俺んちの近くだし」


――そうなんだ。

前の病院に勤めていた頃、その近くにマンションを借りていていた春希は、引っ越しが面倒だからと、今でもそこに住み続けいている。

未だその病院にいる今野先生の生活圏もその辺りで、住んでいるマンションも近い。


とはいえ、春希のマンションに行った事があるワケじゃない。

この前、今野先生の部屋に行った時に、いつもの“リハビリ”の一環として聞かされたんだ。


「それでいい?」

「……うん。お願いします」

「オッケー。じゃーさっさと着替えて、さっさと行こう」


ホントはちょっと気が重いけど、そうしないと、きっと春希は“じゃー持ってくるからちょっと待っとけ”って言って聞かない気もするし。


仕方がなくじゃないけれど……。

とにかくそれに頷いた私は、少しだけその鼓動を速める心臓を誤魔化すように、ロッカーから着替えを取り出して、アニテク部屋に向かった。

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