犬と猫…ときどき、君


「最初にあなたを見た時に、嬉しくなったの。自分と同じような人間に出逢えて、嬉しかった」


私を真っ直ぐに見据える松元さんは、まるで自分の感情を押し殺すように、自嘲的に笑いながら言葉を紡いでいく。


「あなたも一人だと思ってた。私と同じように、外見だけ見て近寄ってくる男に囲まれて、それを見た女には嫌われて」

「……」

「自分と同じ境遇の人間に逢えたと思ったのに……。だけど、全然違った。あなたは一人なんかじゃなかった。周りにたくさん人がいて、みんなに守ってもらって」


――何となく。

本当に何となくだけれど、彼女の言いたい事を理解した気になっていた。


もしもその事が原因で私を嫌っていたのだとしたら、それは私が彼女に抱いていた感情と同じで。

それなら、きちんと話をしたら、お互い解り合えるかもしれない……。


そんな驕りを持ったまま、口を開きかけた。

開きかけたんだけど――……。


「ハルキさんに、それは“憧れ”だって言われたんです。芹沢さんの事が大好きで、憧れの気持ちの裏返しだって」

「え?」

「でも、あなたを嫌いな理由は、それだけじゃない」


松元さんのその言葉に、私は出かかっていた言葉を呑みこんで押し黙った。


私が松元さんに抱いていたのは、女の子らしい彼女への憧れ。

自分が持っていない彼女の可愛らしさが、いつも羨ましくて、それと同時に、春希を取られてしまうのではないかと言う恐怖心がいつもあった。

だから彼女のことは苦手だと思ったし、嫌いだと思い込んでいた。


私が抱いていたのは、そんな感情……。


でも彼女は「それだけじゃない」と、私の目を真っ直ぐ見えすえて、ハッキリと言い放つ。


――私は一体、彼女に何をしてしまったのだろう。


身に覚えはない。

だけど、きっと彼女がここまでするからには、何かがあるはず……。


考えを巡らせる私の目の前で、彼女の口がゆっくりと開き、息を飲む私から目を逸らすことなく言ったんだ。


「ハルキさんの気持ちに、気付いてあげられなかったじゃないですか」

「……っ」

「及川さんに抱いていたハルキさんの気持ちに、芹沢さんは気付かなかった。いつも及川さんに甘えて、ベッタリで」


あぁ、そっか。


「私はハルキさんと同じ気持ちを抱いていて、それを理解してあげられた。分かり合えると思ってた」


この子は……

本当に春希の事が好きだったんだ。


「だけどハルキさんは、いつだってあなたが好きだった……っ!! ハルキさんの苦しみを分かりもしないで平気な顔をしているあなたが、私は大嫌い!!」


私に対してどうこう以前に、春希のことがちゃんと好きだった。


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