≡ヴァニティケース≡
「しかしそうなるとだ、美鈴君の今のお母さんは一体誰なんだい?」
柔らかい口調で質問を返す石田は、しかし普段と違って精彩を欠いていた。他人事でしかなかった写真の謎に、自分まで踏み込んでしまった事実を改めて認識したからかも知れない。
それもそうだ。誰しも心配事の種は少ない方がいい。ただの人生相談であれば気安くても、内容が殺人事件との関わりを疑うものなら、避けて通りたいに決まっている。それは理解出来ないでもなかった。
「誰なのか、それは……解りません。でも、小さい頃からよく言われてたんです。ちっとも親と似てないって!」
美鈴は書棚からアルバムを出すと、そこから写真を数枚取り出した。
「これが去年里帰りした時に撮った母です。こちらは生前の父。どうですか?」
確かに二人ともハッキリとした濃い顔立ちでは有るが、一見して美鈴を彷彿とさせる特徴は認められない。写真を眺める石田の瞳にも困惑の色が宿っていた。
「ふむ、言われて見れば……ね。でもまあ、ご両親の丁度中間だとも言えなくはない」