≡ヴァニティケース≡

「ええ。私もそういう風に思って自分を納得させて来ました。でも、両親が実の親じゃないと思うのが一番自然なんです」


「何故、そこまで思うんだい?」


「それは……勘ですっ」


「ううむ……」


 女の勘が鋭いのは周知の事実でも、それを以て断言されては敵わない。石田もついぞ返答に窮したようで、腕を組んで黙り込んでしまった。その場の空気は重く滞ったまま澱んでいる。


 さすがに言い過ぎたらしいと思った美鈴は、慌てて笑顔を作って石田に詫びていた。


「あの……すいません。こんなこと、先生に言っても仕方ないのに……」


「……いや、相談してくれて嬉しいよ。そうだ。まあほら、お茶もすっかり冷めてしまったから、淹れ直して来ないか? 和菓子でも食べて仕切り直そう」


「あああっ! 気が付きませんでしたっ!」


 バタバタと台所に立った美鈴は、しかし憑き物が落ちたようにスッキリとしていた。


─────そうよ、きっと私は色々と不安だったんだわ。知らない土地、慣れない仕事。ただ、誰かに話を聞いて貰いたかっただけなのかも……─────



< 104 / 335 >

この作品をシェア

pagetop