≡ヴァニティケース≡
ふと、一瞬だけあのパーカー男が脳裏を過って美鈴は眉をひそめた。だが冷静に考えてみれば彼は訪問販売員だったかも知れないし、あるいは新聞の勧誘や国営放送の集金だという可能性も否定出来ない。
「ちょっと過敏になり過ぎてたのかも」
折角石田にガス抜きして貰ったのだ。今夜は湯船にゆっくりと浸かって、嫌な事は残り湯とともに排水口に流してしまおう。
そう思い立ち、これもとっておきの入浴剤とアロマキャンドルを抱えて浴室へと向かった。
「ライター、ライター。あんっ、バスタオルもだわっ」
やはり少しは気が昂っているようだ。すっかり服を脱いでから忘れ物に気付く。本末さえ転倒してしまううっかりが、昔から美鈴の欠点だった。時には自ら、病に等しいとさえ思ったこともある。
仕方無しに一糸纏わぬ姿で居間へ戻った。一人暮らしの我が家では誰が見ている訳でもない。むしろ奇妙な解放感に気分を良くしていた。
「そうよ、せっかくだからこの姿見で見てみよう」
美鈴は裸ついでに体をひねり、贅肉のチェックを始めた。元々太りにくい体質ではあったのだが、そこは女性だ。油断をするとたちまち腰周りに余分な肉が付いてしまう。それでいい筈はない。