≡ヴァニティケース≡

「最近は気にしてなかったけど、どうやら大丈夫みたいね」


 このところ余り食事が喉を通らなかったのが幸いしたらしい。それを幸いと表現していいものか、そんなレトリックの不足やロジックの矛盾はともかく、美しい肢体だけは辛うじて維持出来ていたようだ。


「私ったら、かなりいいじゃない」


 蛍光灯の明かりに照らされて、形の良い乳房がツンと上を向いている。左の方が少し大きいけれど、右の方が形が良いのは何故だろうか。青く透けた静脈も肌の白さを引き立てていて美しい。


 鏡の中の女体は美鈴を写したものである筈なのに、不思議ともうひとり別の女性が居るようにも見える。乳房を下からそっと撫で、手を添えて持ち上げると、子宮の奥にさざ波が立った。


「私ったら……」


 今日は気持ちだけでなく身体も昂っているらしい。訳もなく苛立っていたのも、女の体調がその周期にあったからだろう。改めて意識してみれば、やけに男の匂いが懐かしい。嫌だ嫌だと思いながら、しかし指は乳房の先端へと移動して円を描く。


「ん……ふぅ」



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