≡ヴァニティケース≡
苛めが止まないのならば、せめて長引かないよう会話を封殺すればいい。根拠のない叱責を避けたいならば、こちらから先手を打つしかない。言葉を飲み込まされた蒔田は、眼鏡の奥で細い瞳を丸めている。本人は丸めているつもりらしいが、それでも柿の種程度なのが情けない。的外れな怒りを薄い眼鏡のレンズに反射させている姿こそ滑稽に映る。
「ほな、ちゃっちゃと済ましたったらええねや」
「はい」
そう答えた美鈴の頬には、少なからず微笑が浮いていただろう。男を……とりわけ目上の男を完封した時の気分は格別だからだ。
当の蒔田は暫くこちらを睨んでいたが、荒々しく席を立つと更に荒々しい靴音を響かせて部屋を出て行った。