≡ヴァニティケース≡

「フフッ」


 誰も居なくなった部屋で、美鈴はペロッと舌を出して肩を竦めた。彼女自身、今朝は何かが変わったのを感じていた。目に写る風景もすれ違う人々の表情も、心なしかキラキラと輝いているように見えた。気分が地に堕ちていた頃とは明らかに違う。思えば以前は地面しか見ていなかったのではなかったか。


「はぁ、スッキリした」


 ひとり呟いて、ひとつ伸びをする。両肩と首とを念入りに回してから深く息を吐いた。


 肩の荷が下りるとは、この事かと思った。言葉の意味は解っていても、自分が経験するまでは実感が乏しいものだ。無論、美鈴の都合で【肩の荷】にされた蒔田に同情される余地はない。



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