≡ヴァニティケース≡

 ちょうどその頃、美鈴は足取りも軽やかに駅までの道のりを歩いていた。すれ違う男達は彼女の姿を眩しそうに仰いだり物欲しそうに振り返ったりしているが、美鈴本人はそれをまったく意に介さない。頭には食べ物の事しかなかった。


「お洒落なお店発見!」


 四つ辻から奥に入った路地で、フレンチ懐石の店を見つけた。


 一間間口に少し日に焼けた緋色の暖簾。漆喰の壁、格子戸、瓦屋根と、この京都では洋食店も町との調和を頑なに守っている。料理の彩りもまた、京の風情に属するのかもしれない。


「こんにちは」


「おいでやす」


 昼食時ともあって、店内は結構な賑わいを見せている。席は空いているだろうか。



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