≡ヴァニティケース≡

 こんなことではいけない。恋なんか不毛だ。仮に熟達したところで、それですなわち3LDKのマンションが買える訳ではない。ましてや履歴書に記載出来る筈もない。


 恋は投資でもスキルでもない。生活に有益な諸々からは一線を画した、ひとときの戯れでしかないのだ。そんなものに大切な時間を割く位なら、通信教育で資格を取得した方が後々に有利だろう。こんなことは馬鹿げている……と、ひとりで部屋に居るときは、何度そう思ったか解らない。


 だが、ひとたび彼の手が肌を伝うとその途端。むず痒い官能の熱が、満ち潮となって腰の辺りを容赦なく熱くする。


「早く、早くぅ……」


 打ち寄せる快楽の波は絶え間なく美鈴を浚サラい、濡れ濡れと寝台にその痕跡を滴らせる。身体は揺れ惑い、心の説得に耳を傾ける事なく宙を舞い、やがて打ちのめされて堕ちるのも怖れず、高く、高く昇り詰めていった。


「解ってるさ。今抱いてやるよ」


「お願い……」



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