≡ヴァニティケース≡

 その頃、ワンボックス車の中では、拉致された美鈴が何者かに体を拘束されていた。


「んっ……くっ」


 ビニールロープだろうか。後ろ手に縛られた手首に食い込む紐の感触が痛みを伴って伝わってくる。口に噛まされている厚手のタオルからは機械油の臭いがした。窓の外の景色は動いていて、夜の空に茶色と灰色が混ざった痣のような雲が浮いている。


「やっとおとなしくなったな……」


 作業服姿の男が言った。見ると車内には4人の男が乗っている。皆それぞれがサングラスを掛け、同じ水色の作業服に身を包んでいるので、個人を特定するのは難しい。


 ここにきて美鈴は、心の底から「怖い」と思った。今までとは違う危険が、苦痛が、絶望が、これから自分の身に降りかかるのだ。身動き出来ないこの状況で、自分はどこに連れて行かれるのだろう。その先では、一体何が行われるのだろう。拷問か強姦か、はたまたその両方か。凌辱されるのは遠慮したいが、痛いのはもっと嫌だ。これは女が寂しくて見る夢想とは訳が違う。強姦魔も拷問愛好家も優しく苛めてはくれない。現実は、死がそこにある。



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