≡ヴァニティケース≡

 最短距離での渋滞を避けて、裏通りを選んだ。竹林の中を縫う急な坂道を、唸りを上げてセダンが走る。林道を出て交差点を曲がったときにタイヤが鳴り、同時に中島が叫んだ。


「塚田さん! 追い越しちゃいました!」


「何だと? だったら回り込め。奴らの進路を塞ぐんだ」


「いや……ちょっと待って下さい、塚田さん。いま詳細画面に切り替えましたが、どうやら奴ら、目的地に着いたみたいです。動かなくなりました」


 中島は「ほら、ここ」とPC画面を指差した。


「よし、解った。車を停めろ。ここからは歩いて近づくぞ」


 マフラーから爆音を轟かせながら近付いては、こちらが接近するのをワザワザ敵に教えているようなものだ。竹林の脇に車を停めさせて、塚田は歩き出した。他の男達もわらわらと付き従う。



< 206 / 335 >

この作品をシェア

pagetop