≡ヴァニティケース≡
酷く長い時間気を失っていたような、そうでもないような……曖昧なまどろみの中で次第に身体の感覚が戻ってきた。
どこかに寝かされているのだろう。背中には固いクッションの感触が有って、瞼の外に微かな明かりを感じる。
────私、まだ生きてる────
「さすがです。やはりあなた達にお願いして良かった」
「いえ、ご迷惑をお掛けしていたので、何とかせねばと思いまして」
頭の上から男の声が聞こえて、うっすらと瞼を開けてみた。
────眩しい。首が、頭が……痛い────
ベッドに寝ていることは景色ですぐに解った。狭い部屋、蛍光灯の白々しい光。ここは地下室だろうか、窓がひとつもない。空調の羽根がカラカラと乾いた音を立てている。照明カバーの中にシルエットを落とす迷い込んだコバエの死骸。痛む頭を抑えようとして美鈴は、初めて自分の手が動かないことに気付いた。