≡ヴァニティケース≡

「可哀想に……貴女は何故、ご自分がこんな目に遭っているのか解らないでしょう。でもね。そもそも貴女はこの世に居てはいけない存在なんですよ」


 男の冷徹な口調は、美鈴を恐怖させるに充分だった。顔色を変えずに覗き込んでくる動作にも恐怖を倍増させられる。全身の毛が逆立って、呼吸も震えた。


────どういうこと? 私が何をしたの? 私の何がいけないと言うのっ?────


 美鈴は必死に目で訴えた。彼女の大きく潤んだ瞳は、通常であれば男にとって何よりも魅力的な媚薬となっていただろう。


 人は死を目前にしたとき、それが気骨の男ならば問答を仕掛け演説をぶつ。したたかな女ならばシナを作り誘惑を試みる。どちらも性差をよく現した習性であると同時に、しかし女の方が格段に生存率が高い。もちろん意図してはいなかったが、美鈴の懇願の表情にも如何程かの効力は含まれていた筈だ。



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