≡ヴァニティケース≡

 そんなある日のことだった。やはりと言うか、美鈴は出社するなり課長に呼び出された。


「困るねぇ。折角のアポイントメントをみんなフイにしてしまって。名簿獲得代、電話代、光熱費、事務所の賃貸料にオペレーターの人件費。一件のアポに一体どれだけ経費が掛かると思ってるんだ?」


 美鈴が活躍していた頃は営業自らが電話でアポイントメントを取り、その上で訪問販売を仕掛けていた。しかし、システムが変わったから上手くいかなくなったのだとは、社会人として口に出来る台詞ではない。実際そのシステムを採用したことで、会社全体の売り上げは二割がたアップしていたのだから。


「はい。申し訳ありません」


「やっと取ってきた契約もリジェクトで水の泡。本当にこれが月販500万をコンスタントに売り上げていた人間なのか?」


 過去の実績と傲慢な態度を知っていた課長は、ここぞとばかりに蔑んだ目で美鈴を見た。



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