≡ヴァニティケース≡
「クーリングオフされるってことは、まんま営業の腕不足に他ならない。セールストークの根本から見直さないと、今後が思い遣られるぞ?」
「私はどうすれば……」
美鈴は心の中で歯噛みをしながら絞り出したが、課長には取り付く島もない。
「そんなの自分で考えろ。みんなそうやって乗り越えて来てるんだ」と吐き捨てられた。
弱者側へと回った者に手を差し伸べる程、現在の日本は優しくない。ひとたび戦列を離れ、ぬるま湯に浸りきってしまった美鈴は最早、一兵卒としての力さえ持ち合わせていなかったし、途中下車した者に二度と次のバスが来ないのは、この国では穏当至極の理だ。
屈辱とはこういうものかと、彼女は初めて思い知り、自らの過去の態度を反省したりもした。憤りを通り越して激しい眩暈に襲われた美鈴は、ようやく机に手を付いて床に卒倒するのを堪えた程だった。