≡ヴァニティケース≡

「でも考えてみれば私って、何の免許も資格も無いのよね」


 少し待遇の良い求人ともなると、必ずと言っていいほど【要資格】や【要免許】と、何かしら条件が付いてくる。そうでない求人は応募者が100人を超えていることも少なくない。美鈴が漠然と想像していたよりも遥かに大きな壁が社会にはあった。


 だが現実問題としては、一刻も早い就職が必要だ。始めは慎重に仕事を選ぶつもりでいた美鈴も、通帳の残高が減るにつれ焦りを募らせていった。このままおちおちハローワークの常連などに甘んじている訳にはいかない。


「やっぱり水商売しか無いのかしら。でも、そうなると自宅の近くじゃあ……ちょっと」


 通勤の利便性を考慮して会社の近くに居を構えていたのが仇となり、今のままでは安易に水商売には飛び込めそうにない。元の同僚と顔を合わせてしまった場合のバツの悪さを想像すると、やはり照れ笑いだけではやり過ごせないだろう。美鈴は苦笑しながら、指先で頬を掻いた。



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