≡ヴァニティケース≡
ひとつ深呼吸をして自らの昂ったテンションを抑えた。ふと見上げると、デスクの上段ではプリンターも大きな溜め息をついている。吐き出された用紙が白い面オモテで美鈴の浮き足立った表情を冷静に眺めていた。
「こちらの求人に応募ですね。場所は京都ですがよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「では採用担当者様に連絡をしますので、少しお待ち下さい」
「ええ。お願いします」
【お願いします】以外の言葉が見付からなかったのは、決して美鈴の語彙不足からではない。この時は、奇妙な期待と得体の知れない自信に心が支配されていた。まだ見ぬ新天地が、訳もなく彼女の胸を踊らせて止まなかった。