≡ヴァニティケース≡

 だが、実を言えば美鈴は【運】という不確かなものをあまり信じていなかった。些細な切っ掛けから起きる環境の変化など、人生の単なる分岐点としか捉えていない。人生が運命に左右されたり、あるいは宿命を背負わされていいなどとは、とても了承出来なかったからだ。分岐点で選ばなかった道が過去に累々と横たわっていたからといって、それが運命の残骸だとは言い切れない。


 だからその後の展開の早さに彼女は正直戸惑った。果たしてこれを幸運と呼んでいいものか。しかし、考えてみれば、人の人生に浮き沈みは付き物だ。ひとたび躓いた時は何をやっても上手く行かないが、一度でも歯車が噛み合ったなら、そこからはどれ程貧乏神がせっせと仕事に励んでも影響はないものらしい。



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