≡ヴァニティケース≡

 しかし面接官の答えは予想外のものだった。


「うん。あんたはんでいい思います。それで……いつから働いとくれやすか?」


 初回の面接でここまで言われては、さすがに美鈴も面食らってしまった。これでは通知を待たずとも、すなわち採用と思って間違いない。


 肩から、背中から、汗ばんだ脇から、何か重い憑き物が落ちたかのような爽やかさを覚えた。その剰りに久し振りの感覚に捕らわれて、爽快感の中に微かな既視感が潜んでいる事実に気付けなかった。


「なぁんだ、最初からこうしておくんだった」


 およそ美鈴の中で、京都そのものの印象が良くなったことは言うまでもない。なけなしの定期預金を解約し、それも残り僅かになるまで就職浪人を続けていたのだ。その安堵感は筆舌にし難かった。面接を終えて外の空気を吸った瞬間は、ぴょんとひとつ跳び跳ねてしまった程だ。



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