≡ヴァニティケース≡

「僕は君と出会えて本当に幸せだ。お腹の子が無事に生まれるよう、しっかり月読ツクヨミ様にお願いしておいで」


「はい」


 美治の笑顔に送られ、鈴奈は使用人の山中と神社に参った。折しも境内は春の盛りの中にあり、日差しはなだらかで、花は梢の先にまで溢れていた。


「ほんに良いお日和で」


 山中が穏やかに言う。


 鈴奈も、瞳を溶かすほどに白い陽光の中で頬にほんのりと笑みを浮かべた。


「奥様、お顔をこっちゃへ」


「ええ……」


 記念にと、写真を一枚撮った。この写真が、後にある事件の発端になる事を鈴奈はまだ知らない。



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