≡ヴァニティケース≡
翌朝、外の空気を吸いに玄関を出た鈴奈は、大きく伸びをしながら空を見上げる。もうこの時には朝の陽光が古都をくまなく照らしていた。
「あっ……」
ところが、そのあまりに晴れ渡った縹色ハナダイロの空に、何故か鈴奈は吸い込まれてしまいそうな感覚に陥った。
不意に襲ってきた眩暈が見慣れた景色を歪ませ、そして銀色の粉が視界を舞う。
─────倒れてもうてはあかん、怪我してまう─────
鈴奈は格子戸の桟に掴まり、膝が折れそうになるのを必死で堪えた。
「……なんですやろ。近頃はこないなこと、のおなった筈なんやけど」
今日の為にと早く就寝した所為だろうか、まだ体が目覚めていなかったのかもしれない。ゆっくりとしゃがみ、暫くこめかみに手を添えて踞っていた鈴奈だったが、いつまでもこうしてはいられない。同窓会の出席に備えて午前中は美容院に行く予定があった。
「おかしおすなぁ……」
思えば一人では久しぶりの外出だ。知らず気が昂っていたとしても不思議ではない。鈴奈は覚束ない足取りのまま家の中へと戻って行った。