≡ヴァニティケース≡

 だが車が伊藤邸に戻ってくると、何が有ったのか明らかに家の雰囲気がおかしかった。そんな気配の違和感を追うようにして、


「奥様、様子が変でおます」


 運転手が表情を一変させた。彼は険しい顔でスピードを落とし、慎重に車を正門へと近付けて行く。ふと風が立ち、庭に立つ杉の枝が不気味に哭いた。


「どないしはりました?」


「やっぱりおかしおす。開いている筈のない門が開け放してありますよって……」


 門の手前に注意深く車を停めたが、やはり屋敷に人の気配はない。



< 76 / 335 >

この作品をシェア

pagetop