≡ヴァニティケース≡
「そないに酷い荒らされ方て……かたつけが往生するやないの、ほんまに!」
瞼の筋肉がピクピクと痙攣している。およそ見当違いな怒りにでも矛先を向けていなければ、最悪の事態を想像してしまいそうで怖かったのだろう。
鈴奈は押し潰されそうになる心を必死で奮い立たせ、階段を上り、踊り場を駆けた。ミレイが居る筈の二階へ。
「早よう、早よう行かんと」
焦りと息苦しさで鈴奈の視界が狭まる。折れた廊下は長方形の箱。並ぶ襖はひと色の壁。その襖の一番奥だけが倒れていて、真っ黒な口をぽっかりと開けている。
そこに漂っていたのは【おぞましさ】という名の気配だったに違いない。
「……一体なんですのん、あれは……」
見なければ良かったと鈴奈は思った。運転手の言葉通り、彼女は玄関を離れるべきではなかったのだ。