恋イチゴ
彼女が、たった1人でこの図書室にいることにはわけがあった。
…それは今日の6時間目、古典の授業で起こった。
「次の授業で取り扱いたい資料があって…。」
いつものように、先生の独り言がきっかけだった。
希祈の通う学校には、いわゆる一流大学を目指す"特進科"と、通常の生徒…つまり、それ以外の生徒が通う"進学科"というものがある。
といっても、校舎も違えば、場所も離れているので、お互い滅多にすれ違うことはない。
希祈は地元が近いため、進学科に通っている。
もっとも、希祈の頭では特進科なんてもってのほかであるのだが。
なにが言いたいのかというと…進学科は特進科からこぼれた、ご老人先生がたくさんいるのだ。
ご老人先生、といっても、地道にキャリアを積んできた、ベテランの先生だ。
ただ1つ嫌なことは…
みんなが嫌がる面倒くさい任務を、生徒に下す。
「少し古いものだから、図書室の奥のほうにあるだろうなぁ…。あぁ、でも有名なものだから、探せば絶対あるんだが…」
…そしてやっぱり、希祈に白羽の矢が立った。
「西山…探しておいてくれるか?」
そんな、ただの先生の独り言に、うっかりうなづいてしまった希祈は、こうして今、その本を探すハメになってしまったのである。