ジェフティ 約束
 剣を握ったシェシルの、邪悪なほど怪しげに光るアメジストの瞳とその強さと共に、アブドクリスタルが血を浴びるごとに透き通るのだと、血を欲しがる魔剣だという噂が付きまとっている。
 ――しかたがない……か。
 口元に自嘲の笑みが浮かぶ。シェシルは、自分の運命にことごとく振り回されていると感じて苦笑しただけなのだが、周囲の兵士たちからしたら、ジャスティスの箍(たが)が外れた瞬間、絶対にもう自分たちの命はないと戦慄を覚えた瞬間だ。

 ――私が命をかけるもの。いつもそのためにこの剣を握る。
 シェシルは手の中の長剣の刀身を返し、そこに刻まれたもうひとつの文字を見た。
 『Stable will』
 今はその想いにもっとも近いものの為に……。
 ――私はその為に今まで生かされていた。
 シェシルは遠巻きに自分を囲む兵士たちに向かって、剣を振り上げた。
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