ジェフティ 約束
 自分の手からいつの間にかテーブルへと移動したグラスを再び持ち上げ、一口すする。
 ――エドだな。
 アスベリアはふっと微笑した。酒だけはエドがこの部屋に持ち込んだらしい。彼が好むベリドル産の、少しまろみのあるぶどう酒の香りが心地よく口から鼻へと立ち上った。
 ランプに火を灯したのも、グラスを移動したのも彼だろう。アスベリアはエドの忠義をありがたいと思いつつも、居心地の悪さを感じていた。

 エドに戦場で命を助けられたことが何度もあった。彼はああ見えても歴戦の勇であり、本来ならば今頃隠居をして故郷でのんびり暮らせるだけの恩賞を与えられて当然なのだ。それをこうやってアスベリアの傍で、過ごしているのには、彼なりの理由があった。
 エドには一人息子がいる。詳しくは知らないのだが、亡くした女房の忘れ形見なのだと聞いたことがある。その息子が王都で仕事を探しているという相談を受けたとき、アスベリアはその紹介のために推薦状を書いてやったのだ。息子が自分と同じ軍人の道を歩まないようにしてやってほしい。それがエドの望みだった。
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