ジェフティ 約束
 何気なくつぶやいたラルフの言葉に、シェシルの眉根が一瞬寄るが、焚き火の前にうずくまる二人には見えるわけもない。
 最近のラルフの体には生傷が絶えない。なぜなら、移動の合間にシェシルに剣の使い方を教えてもらっているからだ。
 シェシルの教え方は実践的で、理屈は感覚で体に覚えさせるものだという考え方のようだった。ラルフが剣を構え、シェシルが木の枝を振りながらこちらを見つめる。ただそれだけで、ただならぬ威圧感と恐怖心がラルフの心臓をつかんで放さないのだ。
 不思議なことに、シェシルの握る木の枝は、ラルフの剣に触れても切られて短くなることはない。シェシルがラルフの剣に触れる瞬間に、角度を変えて剣の腹を弾くように押し戻すからだ。十分もすると息が荒くなって、汗がこめかみを伝い地面へと吸い寄せられるように滴り落ちる。しかし、シェシルは息が上がるどころか、むしろリラックスしてくつろいでいるようにも見えるのだった。
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