ジェフティ 約束
「二人でワルツの練習をしたのも無駄じゃないね」
 ――これしかない!
 再び目の前に現れた好機を掴むべく、アスベリアは胸を弾ませ城の門をくぐった。そこで最初に自分を招きいれたのは、エドであったらしい。年齢を偽っていたことを見抜き、やせ細った自分に――戦場では生き残れない――と苦言を呈されたことも覚えている。
「真の戦場は地獄への入り口だぞ。生きて帰るなんて保証はどこにも無い。仲間のところに戻れ。そのほうが幸せだということも、この世の中にはある」
 今思い返してみても、あの頃の自分は何も知らず憧れで胸を膨らませた世間知らずの子供だった。次に目にしたのは、自分が夢にまで見た騎士の姿ではなかった。武装というにはいささか躊躇(ちゅうちょ)するような粗末な鎖帷子(くさりかたびら)、錆の浮いた刃のかけ落ちた剣、昼間から酒に酔い赤ら顔でどんよりとした目をした粗暴な男たち。およそアスベリアの想像からはかけ離れた光景であった。しかし、アスベリアはそんな虚像の騎士像にまだしがみつき、いつかは馬に乗って戦場を駆ける、雄々しい姿を夢見た。
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