ジェフティ 約束
「おい」
 不意にアスベリアを見つめていた男が口を開いた。
「なんだ?」
「酔ったのか?」
 アスベリアはゆっくりと男へと視線をやる。少し視線がぐらついた。確かに酔ったみたいだ。手酷く殴られた後だ。それも至極当然だっただろう。首筋に鈍痛が走り、アスベリアは無意識にそこに手をやった。
「体中が痛いだけだ」
「私だって同じだ。お前の膝蹴りで歯が折れたぞ」
 くぐもった話し方をしながら、男は顎をさすった。
「……オレは、あんたに捕まってよかったのかもしれないな」
「なんだと?」
 男は驚きに目を見張る。
「セオール=マーニヤに会わせろ」
 アスベリアは挑みかかるような表情で、自分は冗談を言っているわけではないことを男に伝えた。
「調子に乗るな。お前はノベリアの国情を垂れ込むつもりか」
「……違う、……いや、そうなるのか」
「どっちなんだ!」
「だから言ったはずだ。オレは国を捨てたんだ。セオール=マーニヤの欲しがっている巫女姫をくれてやると」
 男はつくづく呆れたとでも言うかのように、深いため息をついて体勢を崩す。もう何もいう気はない、好きにしろといわれたようにアスベリアは感じた。アスベリアも痛む体をクッションの上に伸ばして横たえた。捕虜でいるのも悪くはない。雨が一段と強く馬車の屋根を叩き始めていた。
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