ジェフティ 約束
 ノリスはアスベリアの言葉に視線を伏せて、――そんなことわかってるよ――と呟く。
「それでもかまわないんだ。私はただ、早くこの無駄な争いを終わらせて、平穏に暮らせる生活を取り戻してやりたいだけなんだよ」
「……驕っているのはお前のほうだぞ、ノリス」
 そう言って苦笑しながらも、心の中では子供の頃に両親や兄弟を残して飛び出した、自分の村のことが気がかりだった。あまりの重税に耐えかねた農民が、村を捨て山賊になり商家を襲っているという現実が、アスベリアの心にも重くのしかかっていたのだ。
 まずは食料を生産する場所を守り育てなくては、国は体力を失ってしまう。何度も王に意見をしたが、その度に鼻であしらわれてしまった。
 玉座の前でひれ伏しながら、何度悔しさに唇をかんだ事か。なぜ、我々はこんな男の為に命を賭けなくてはならないのか。そんなことを考えた日もあった。
 ――それは思ってはいけない。
 アスベリアは必死に自分を押さえ込んだのだ。それはノリスも同じだっただろう。
 地位が低いからといって、嘆願も通らず、この手で救ったはずの命を消してしまわなくてはならない不条理も、すべて飲み込んでこの手を汚し続けた。
 ――あんなことがなければ、オレは未だにあの男の足元に額をこすり続けていたかもしれない。

 そう、あの雨の日の裏切りを、自分の手で犯すまでは……。
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