ジェフティ 約束
「今が好機だと思っているのかもしれないな。ノベリアは中央が混乱している。立て直しには時間がかかるだろうから」
「王の出陣と敗走は、正直痛手だったな……」
 そう言うシラーグこそ、被害者の一人だろう。その敗退のおかげで、王の身なりをして煌びやかな短剣を腰に差し、影武者としてわざと追われなくてはならないのだ。従者はすでにアスベリア一人。護衛騎士一人を連れた王など偽者に決まっている。まるで猿回しのサルだ。シラーグはしっかりとその辺りをわきまえているようで、ここまでの道中も――もし捕まるようなことにでもなったら、お前は一人で逃げろ――と何度となくそう言っていた。そういうわけにもいくまい。
「でも、ここなら安全よ。村の人もしばらくはこないだろうし、私も何か食べる物を運んであげられるから」
「危険なことはしなくていい」
 「いいの」と、ルーヤは頭を振る。
「村の半分くらいは、コドリスに加担することに反対したのよ。でも、……仕方なくて。自分たちが属している国のことは、対岸の火事のようなものだったんだもの。税は重くなるばかりだし、生活は苦しくなっていくだけ。戦争だって、直接火の粉が飛んでこなければ、私たちには関係がないのだもの。だけど、生活が出来なければ、誰だって考えてしまうわ」
「至極正論だな」
 シラーグはしみじみとその言葉をかみ締めるように首肯した。そのとおりだと、アスベリアも思う。自分も、もしあのままここで農夫になっていたら、この痩せた土地を耕して貧困を極めていただろう。さらに追い討ちをかける重い税に苦しみ、国政に怒りを覚えていたはずだ。
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