ジェフティ 約束
 天幕の外に顔を向けたまま、視線だけをサズルに戻した。サズルの口元が愉悦に歪む。
「ふん、そう取るならそれもよい。こちらとしても、ぬしの能力は高く買っておるつもりだ。ハブカンダでの緒戦の戦略はぬしであろう?あのままであれば、わしの軍勢もコドリスへと押し戻されたであろうな。いつまでたっても我侭で身の程知らずな君主に振り回されているのも、そろそろつまらん頃だろう。
 ぬしが誠意さえ見せれば、その命、わしが預かってもよいぞ」
 ――誠意か……。
「忠厚を尽くすは己の想いにのみぞ」
 サズルが脇に控えていた兵士に目線で合図を送ると、兵士は立ち上がりアスベリアの背後に回った。腰に下げた短剣を抜き、アスベリアの体を拘束していた縄を切る。
「どうだ、今の地位に不服であるならこちらにこい。ぬしの能力さえあれば、こちらとしてもそれなりの地位を用意する。わしはそれくらいの懐の深さを持っておるぞ。
 だがな、その前にわしを信用させよ」
 サズルは立ち上がりアスベリアに歩み寄ると、なみなみと酒を注いだ杯を目の前に置いた。
「あの影武者と、我々の裏切り者の女を消せ。
 どうだ?ぬしの誠意の現れとしては申し分ない代価であろう。己の命を賭けるほどのものでもあるまい。承諾ならその杯を取れ」
< 455 / 529 >

この作品をシェア

pagetop