ジェフティ 約束
 ボルシェ=サズル。前コドリス国王の甥で、現コドリス国王バルナバ=ジェスタルの従兄。王家の血筋を継承し、名将と名高い歴戦の雄。その体から迸るような豪胆さ、猛々しく剽悍(ひょうかん)な井手達は、コドリスの兵士たちにとって憧れの存在といってもいい。その存在はノベリアに属するアスベリアも周知である。
 ――なるほど、一廉(ひとかど)の風格というやつか。
「オレに用があるのか、と聞いてるんだ」
 アスベリアは、サズルの威圧的な雰囲気に飲み込まれないよう、自分の腹に力を込めてそう言った。
「さっさと始末したらいい」
 杯を掲げた手の間から、射抜くような視線が飛んできた。サズルの黒々とした瞳が、きらりと光る。
「そうしてほしいか?他にもこの状況を脱する方法があるぞ」
 サズルはそういうと、杯を持った手を、天幕の出口へと向けた。アスベリはゆっくりとそちらを伺う。
「……それは、オレにこの国を裏切れという意味か」
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