ジェフティ 約束
 わしは折りよく村を離れとったから難を逃れたが、カジファルほどの名工ではなかったしなぁ」
 老人が足元の鞴(ふいご)を踏むと、炉の光が増して細かい火花が無数に舞い上がった。
「……どうも、歳をとると湿っぽくなっていかん」
 ラルフに背を向け、シェルグ老は火バサミで炉の中の刃をひっくり返す。ラルフもいたたまれなくなって、テーブルの脇に置かれていた木の椅子に座ってみたり、壁際の棚の上の蜜蝋燭に火を灯して歩いたりと、所在無く動き回っていた。
「シェシル……、遅いね」
 ――もしかして、インサと一緒にどこかに囚われてしまったのだろうか。
 ふと、そんなことを思い、ラルフは胸が締め付けられるような言い知れぬ不安に襲われた。それと同時に、自分がシェシルに心のそこから依存していることに気がつき、罪悪感がこみ上げてきてうろたえた。
 そんなラルフの様子に気付いたのだろう。シェルグ老は、部屋の奥の暖炉にかけてあったヤカンからカップに湯を注ぎ、茶葉を入れてラルフに差し出してくれた。それはシェシルがいつも飲んでいたお茶の甘い香りがする。何故だろうか。その香りを嗅ぐだけで、ラルフはシェルグ老とシェシルが失った望郷への追憶の想いを感じたような気がした。
「どうせ、奴のことだ。ここまでの道を忘れて迷っとるだけだろうさ」
 ――確かに……。
 ラルフは的確なシェルグ老の推測に思わず苦笑して頷いた。
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