ジェフティ 約束
 シェルグ老が鞴を踏んで、鍛冶火窪(ほくぼ)に風が送り込まれる音。台の上で真っ赤に焼けた金属を金鎚で打ち鍛える甲高い破裂音だけが、天井の広い部屋の空間に満ちている。その都度飛び散る火花が炎の妖精の羽ばたきのように見えた。刃には、それぞれ硬さの違う金属を重ね、硬さと柔らかさをバランスよく加えるのだそうだ。その為、刃を研くと独特の積層模様が波のように浮かび上がってくる。
 ラルフは老人の傍らで、じっとその様子を見つめていた。
「……ん?やっと来おったか」
 鍛冶火窪の脇にあった水桶の中に、赤く焼けた刃を入れると、もうもうと激しい勢いで水蒸気が上がった。その熱気を帯びた水蒸気を手で払うと、シェルグ老は部屋の奥の扉の方へと向かった。
 そこは、ラルフが入ってきた入り口とは反対側だったが、確かに扉を叩く音が聞こえた。ラルフも思わず扉に駆け寄る。
「シェルグ、私だ」
 扉の向こうから、間違いなくシェシルの声が漏れ聞こえた。それでもシェルグ老は小窓を開けてその向こうを確かめ、閂を外して扉を開ける。
「なんだ、外はまた雨か」
 フードから水を滴らせ、ぐっしょりと足元まで濡れそぼったシェシルが部屋に入ってくる。後ろからインサが仏頂面で着いてくると、扉が閉められた途端、頭を覆っていたフードを乱暴に剥いで大声をあげた。
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