貴方に愛を捧げましょう


鈍痛に始まり、じんじんと不定期に疼き出す。

柔毛に顔を埋めたまま、小さく呻いた。

すると、その部分に何かがそっと触れてくる。

その“何か”は、考えなくても分かった。


「痛むのですね……」

「平気よ…っ」

「あれらはどう致しますか…? 貴女のご命令とあらば、どんな事でも致しましょう」

「……放っておいて。何もしなくていい……」


もう見たくもないし関わりたくもない。

彼は、そこに倒れている彼女達の息の根を止めたいと、本気で思っているのだろうか。

あたしが「殺して」って一言発したら、躊躇いもなく手を掛ける?

きっと……彼はそうする。

さっきの冷たい瞳をした彼からも、腕の中の獣と同じように、殺気を感じられたんだから。


どうして? あたしがそれを望んでいるとでも?

あたしの為なら、その手を汚すのも厭わないと…?


──…分からない、理解できない。

彼の事を考えると疲れる、頭が酷く痛む……。

そこでふと、疑問に思っていた事を口にした。


「あなたの本当の姿は、どっち…? どうして人間の姿でいるの……」

「どちらも、本当の私です」


それが答え?

そんな答えで、あたしが納得するとでも?


顔を少し上げて、あたしの頭を労るように撫でる彼を見上げた。

夕陽を反射して朱に染まる瞳が細くなる。

その美しい顔に、微笑みを讃えて。


「それに……この姿でなければ、貴女を抱きしめることが出来ません」

「……なにそれ」


そんなこと望んでない。

じゃあ……それは、誰の望み?


「ですが、貴女が望むのであれば、喜んで姿を変えましょう。より化け物らしい、獣の姿に」


彼の薄い唇が弧を描く。

朱い瞳に幻惑して、あたしの唇を撫でる彼の手を払うタイミングを見失った。


「──…うん、そうして。あたしは、こっちのあなたの方が好き……」


そう……あたしは“人間”が嫌いなんだ。

他人も、自身も含めて。

だから葉玖には、人間らしさを感じさせない“獣”の姿でいてほしい。

化け物でも構わない。


あたしの思考は、真っ赤な夕陽に澱んで正常に働かない。

働かせようとする気力は、どこか奥深くに沈んでしまった。

だから…──


「直に陽が暮れます。帰りましょう、由羅様……」


差し出された彼の手を、躊躇うことなく握り締めた。


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