貴方に愛を捧げましょう
目を閉じて、うとうとしていると。
「由羅様」
すぐ傍から、あたしを呼ぶ密やかな声が聞こえてきて。
返事をするのが億劫で、寝たふりをしていると。
「……?」
──微かに届く、小さな物音。
それが気になって思わず瞼を開いた。
「……なにしてるの」
目の前に並べられた、沢山の向日葵(ひまわり)。
あたしの問い掛けにふわりと微笑む、綺麗な顔。
魅惑的な薄い唇が緩く弧を描く。
「これを貴女に贈ります。花は、お嫌いですか…?」
「……好きよ」
嘘を吐く理由もなくて正直に答えると。
彼はほんの少し首を傾げて、また微笑んだ。
はらり、と金糸のような髪が目にかかる。
「良かったです」
「なにが…?」
「貴女に喜んで頂けて」
「別に、花は好きってだけだから。……でも」
含みを残したあたしの言葉に、彼が不思議そうな顔をしている。
その様子を眺めながら向日葵を一つ手に取った。
「向日葵の花言葉って、知ってる?」
「──…いいえ」
二つの黄玉を隠す髪が、風にそよいで揺らめく。
その合間から覗く、真摯に向けられた蜂蜜色の瞳と、目が合って。
「“私の目はあなただけを見つめる” これが、向日葵の花言葉」
彼の瞳には、あたしの姿が鮮明に映り込んでいた。
彼から贈られた、向日葵の花言葉のように。
これこそ、完璧な皮肉よね。
そんな意味が込められた花を、何も知らずに“あたしに”贈るなんて。
そう、思っていたら。
「──…ええ。私の目は、貴女だけを見つめています」
魅惑的な声で紡がれる、甘い囁き。
それは妖艶な笑みを浮かべ、あたしを惑わせる。
あたしの心は、長い間水を与えられずにいた、潤いに飢える土のよう。
渇きひび割れ、隙間だらけで、ぼろぼろ。
修復の余地なんて無いはずのそこに。
彼の言動から確かに感じられる、優しく穏やかな愛が、甘い蜜のようにじわりじわりと染み込んでいく。
巧みに、侵食していく。
喩えそれら全てが、偽りだったとしても。