貴方に愛を捧げましょう


手を伸ばして、黄金色の髪に指を絡めた。

彼は動かず、あたしにされるがままじっとしている。


この髪は、あの逞しく美しい獣を思い出させる。

彼が自らを化け物だと言った、あの狐の姿を。


「……葉玖、眠い」

「──…はい。由羅様」


ふわり、と美しい顔に微笑みが浮かぶ。

その瞬間、サアッと穏やかな風が吹いた。

庭に咲く沢山の花が放つ薫りを乗せて。


「──…葉玖」


あたしの体を囲うように丸くなった大きな狐に、躊躇うことなく頭を預けた。

こちらを見つめる鋭い瞳、逞しい体躯から香る芳しい匂い、心地よい黄金色の体毛。

鼓膜を震わす、甘えるような唸り声。

その全てが、あたしの心を落ち着かせてくれる。


「お休み下さい、由羅様。私はいつまでも、貴女の事を見守っています」


その声を合図に、あたしは意識を手放した。

頭を撫でる優しい手を感じながら。





次に目が覚めた時には、辺りは真っ暗だった。

そしてあたしの身体はふわふわと宙に浮いていて。

見上げると、そこには微笑みを浮かべる彼の顔が。


「先程、貴女のご両親がお帰りになられました。由羅様は彼らと顔を合わせるのを嫌っているようなので……勝手ながら、貴女のお部屋へお連れしようかと」

「ん……」


もうそんな時間…?

あの人達が帰ってきたのなら、今はもう夜中のはずだ。


「……降ろして」

「はい」


階段の途中で降ろしてもらい、あとは自分の足で上がった。

上がりきった所にある窓へふと視線を向けると、雲一つない暗闇に、欠けた月が煌々と光を放っていた。

美しくて、とても…──


「とても美しくて、幻想的な下弦の月ですね……」


月明かりの下。

黄金色の髪の合間から覗く冷たい瞳は、どこか遠くを見つめていて。

そう静かに囁く彼の姿こそ、この世の者とは思えないほど幻想的に見えた。


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