闇夜に笑まひの風花を
『別に忘れなければならないわけではないわ。二度とこれを使おうとしなければ、ね』
意地悪い口調で彼女は私に視線を流した。
私は彼女に、分かったわ、とだけ返す。
私は記憶力は良い方だと自負している。
無理にでも忘れなければならないなら、術で記憶を消すしかない。
それをするには、六歳の脳は柔らかすぎた。
使わなければ、いづれ新しい記憶に上書きされて忘れるだろう、と。
このときはその程度にしか考えていなかった。
あれ。
私は目を擦る。
視界が歪んできた。
瞼が落ちて。
ふわふわする。
それが意識なのか身体なのか、もう判別がつかなかった。
『さあ、もう帰りなさい』
優しい声が離れていくような、そんな奇妙な感覚。
もうこの世界から出なければならないのだと、彼女とお別れなのだと、悟った。
そこで、初めて気づく。
彼女の名前は何だったのだろう?
けれど、瞼が完全に落ちて、彼女の声が聞こえなくなると、そんな疑問もすぐに忘れてしまった。
『アンジェ』
懐かしいような声に目を開けると、そこにはハルカさまが笑っていた。
さらりと頬で踊るのは、赤茶けた髪。
これと同じ色を見たことがあったような……。
けれど、それが誰だったのか、思い出せない。
『おはよう』
聞き慣れた声。
温かな声音。
これが傍にある幸せ。
こうしてまたハルカさまに会えたことを、嬉しく思った。
人間だ。
そう、私は人間だ。
人間以外のものにはならない。
そう、誓ったのに。
意地悪い口調で彼女は私に視線を流した。
私は彼女に、分かったわ、とだけ返す。
私は記憶力は良い方だと自負している。
無理にでも忘れなければならないなら、術で記憶を消すしかない。
それをするには、六歳の脳は柔らかすぎた。
使わなければ、いづれ新しい記憶に上書きされて忘れるだろう、と。
このときはその程度にしか考えていなかった。
あれ。
私は目を擦る。
視界が歪んできた。
瞼が落ちて。
ふわふわする。
それが意識なのか身体なのか、もう判別がつかなかった。
『さあ、もう帰りなさい』
優しい声が離れていくような、そんな奇妙な感覚。
もうこの世界から出なければならないのだと、彼女とお別れなのだと、悟った。
そこで、初めて気づく。
彼女の名前は何だったのだろう?
けれど、瞼が完全に落ちて、彼女の声が聞こえなくなると、そんな疑問もすぐに忘れてしまった。
『アンジェ』
懐かしいような声に目を開けると、そこにはハルカさまが笑っていた。
さらりと頬で踊るのは、赤茶けた髪。
これと同じ色を見たことがあったような……。
けれど、それが誰だったのか、思い出せない。
『おはよう』
聞き慣れた声。
温かな声音。
これが傍にある幸せ。
こうしてまたハルカさまに会えたことを、嬉しく思った。
人間だ。
そう、私は人間だ。
人間以外のものにはならない。
そう、誓ったのに。