トマトときゅうり


 私はおっちょこちょいだと、認めよう。多少鈍いし、気が利くほうではないかもしれない。

 それでも、普段の冷静さをもっていたなら、この時のきゅうりのセリフも違うように解釈したと思う。その言葉の中に、私への好意や、甘い響を感じ取って、喜んだかもしれない。

 でも実際は、この2時間で起こった色々なことやキスなんかでショックをうけて蕩けてしまってた頭では、好意的には受け取れなかったのだ。

 つまり、絶望した。

 物事を悪い方へ悪い方へと考えてしまう、就職活動の弊害がぐわっと襲ってきたのだ。

 瞬間的に思考はショートし、その後、悲しみと寂しさが団体でやってきた。

 震える唇をきつくかみ締める。


 嘘でもいいから、今夜だけは、私が好きだと言って欲しかった。

 お前が欲しかったと。

 だからキスしたんだと。

 愛しかったと。

 本当の彼女になりたいなんて、わがままなことは望まないから。


 他の誰かの名前を出して、それを理由付けになんて――――――



< 194 / 231 >

この作品をシェア

pagetop