あやまち
ようやくテニスコートが見えてきて……


ラケットを振っている背中も、視界に入ってきた。


その瞬間、心臓が一際大きく音をあげた。


それでも、またすぐにさっきまでの規則正しい音に戻る。


誰かとラリーしているのかと思っていたけれど、実際そこにいたのは、一人で壁打ちをしている渉だけだった。


建物の陰から、そっと隠れるように渉を見る。



『答えが出るかもよ』



しばらくその姿を見ていたけれど、あたしの心臓は相変わらずトクトクと音をたてているのに、自分の気持ちが動くような感覚は全くなくて……


結局、はっきりとした答えは出てこなかった。


渉に会えば、もっとすっきりするかと思っていたのに。


どこかモヤモヤした気持ちを抱えながら、その場を去った。



そして講義を受けたあと、この日もサークルへは顔を出さずに、アパートへ帰った。
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