薬指の約束
そのまま吹田先輩の手は、
あたしの服の中にどんどん入ってきた。



気持ち悪い…


逃げなきゃ。


そう思ったあたしは、精一杯の力を振り絞って、

吹田先輩の体を押し倒した。



ドンッ



「ってぇ…」


「すいませんっ」


吹田先輩が地面に転げている間にあたしは鞄を持って、
公園を飛び出した。



公園から家までは歩いて10分くらい。


全力で走ったら5分くらいで行けるはず。


吹田先輩が後ろから来ても追いつかれないよう、

あたしは全力で走った。





「たっ、ただいまー!」

さっきまでの恐怖が表に出ないよう、わざと明るく言って家に入った。



「あら、もな、おかえりなさい。

どうしたの、息なんか切らして。


今日は依緒ちゃんと映画観に行ってたんじゃないの?」



キッチンからお母さんが出てきた。

お母さんには、吹田先輩ではなく、依緒ちゃんと映画に行くって嘘ついていたんだ。




「うん、暗くてちょっと怖かったから、
依緒ちゃんとばいばいしてから、

走って帰ってきたんだ」




あたしは、嘘が下手だとよく言われる。

だから、バレないか不安だったけど、これくらいなら大丈夫なはず。




「そうなの、本当にもなは怖がりね」


お母さんは笑いながら、キッチンに戻って行った。
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