ママのバレンタイン
「だって、ママがいなんだもの……」
「ごめんね……寂しくさせて……でも、香奈は不幸じゃないでしょう?パパやおばあちゃんは愛してくれるでしょう?違うの?もしも、香奈が不幸なら、ママのところにおいで。すぐにおいで。ママは香奈を独り占めにしたかった。ずっと、今でも一緒に暮らしたいと思ってる。でもね、それはママの気持ちであって、香奈の幸せじゃない。香奈が幸せになるために、ママも自分を取り戻すために……いっぱいいっぱい考えて……」

 ママが泣いた。
 七歳の私はもう言葉が見つからなかった……
「ママは、頑張ってるよ……」
 ヤスオちゃんも、それだけの言葉だったけれど、ママをちゃんと守ってくれているのが痛いほどに分かった。

 それから、月に二回ママに会いに行っても、何も聞かなくなっていた。ヤスオちゃんと普通にお話をして、ママとじゃれ合って、心のどこかを少し満腹にさせて、パパとおばあちゃんの待つ新庄家に戻っていた。

「いくつ目の恋?」
 ママが悪戯っぽく覗き込む。
 娘の成長を、楽しみにしている、ごく普通の母親の眼差しだ。
「う~ん、高校二年生にして、三つ目がめでたく成就いたしました」
「ほ~おお!おめでとう。大切にするんだよ」
「うん、ありがとう」

 ママと私はすぐに別れ難くて、お茶しに喫茶店に入った。暖かいココアを二つ注文してから、ママは真面目に私を見て言った。

「あのね、香奈……大切にするのは自分だよ」
「えっ?」
「相手にあわせすぎてもダメ。自分勝手でもダメ」
「難しいこと言うねえ……」
「難しいと思う相手なら、止めなさいね。自分の気持ちが自然に相手に伝わって、相手も自然に気持ちを帰してきてくれるのが、一番だと思うなあ……」
「……」
「自然ていうのは、きっと、いつでも相手を見つめているっていうことだと思う。もう、これでいいじゃんって、手抜きがはじまったらおしまいだと思うよ」
「ママ、言葉に重みがあるよ……」
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