ママのバレンタイン
 実はそんなママとヤスオちゃんが、私の自慢でもあった。
 もちろん、パパとおばあちゃんだって、自慢だった。ママと会うことを駄目だと言ったこともなかった。
 とにかく、私の幸せは、私を取り囲む大人達が大人であることを誇示しようともせず、自分たちの幸せと、私の将来をきちんと守ってくれていることだった。

「まず、自分が幸せを感じないとね、何もはじまらないよ」
 目の前のママは、やっと、大人の話が出きるようになったと呟きながら喋り始めた。
「ママ、新庄家の奥様の座って魅力的じゃなかった?」
「ふふふっ、本当はちょっぴり後悔もしたかもね」
「だったら、もう一回、パパと恋愛してみる?」
「それは、無理」
 ママはきっぱりと首を振った。
「パパのこと、さっき好きだって言ったでしょう?ヤスオちゃんは若いんだから、もっと、いい女の人がいるよ。パパのこと今なら分かってあげられるんじゃないの?」
「ちょっと、違うな」
「どこが?」

「新庄家の奥様という言葉は、ママに幸せを感じさせてくれなかった。パパはママのことを勘違いしていたの。恋は思いこみとか勘違いからはじまって、それを少しずつ修復してお互いに歩み寄りしていく作業がまあ、『愛を育ってる』っていうんじゃないの?パパとママには燃え上がる恋があった。でも、お互いに見えない壁に気付かなかった。どうしても歩み寄れない……分かり合えない……お互いの努力が見えていて、分かってあげれているのに、心が通い合わない……気付いたときにはどうしようもなかったのよ……」

「私がいても?」

「香奈がいたから、頑張れた。これは信じて。子どもが夫婦の絆を繋ぐっていうのは、変なことだと思わない?夫婦の絆があって、大きな安心があって、子どもはのびのびとすくすくと育つのよ。子どもに依存しちゃあ、おしまいよ。子どもはいつまでたっても、親が心配で独立できないじゃない?そうでしょう?大きな安心のない不安な場所では、どちらも不幸なだけだわ」

 真剣なママの言葉に、私は息を呑んだ。 
 ママは、どこまで考えて、新庄家を出たのだろう。
 パパは、どこまで許してママを解放したのだろう……
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