ママのバレンタイン
ヤスオちゃんは、どこまで受け入れてなおママを愛しているんだろう……

「私、どうしよう……何も知らなかった」
「それでいいのよ、子どもは勉強が第一。対等だなんて思わないで。修行して、いい女になって、ママに負けないだけの大人になる事よ。それが、みんなの願いよ。ママはずいぶん遠回りをして来たけれど……でも、香奈が今、まっすぐにママの人生を受けとめてくれた。ママはもったいないくらいの幸せを感じてるわ……」

「ママ……」

「香奈と離れて暮らす毎日は、地獄のようだった。でも、彼がいてくれたから乗り越えてこれた。香奈がいてくれたから、自分を絶望できなかった。ママがママを見切ってしまったら、ママのへその緒を受け継ぐ香奈までも否定することになるんだもの……香奈はいい子。だから、ママにもきっといいところがあるはず……離婚までに行き着くまでのママは、自分を否定してばかりいて、香奈を大切にできなかった。ごめんね……辛い思いばかりさせて……」

 確かに辛かった。
 悲しかった。
 寂しかった。
 ママが、泣いてばかりいて……
 ママは、わけもなく怒ってばかりいて……
 ママの笑顔が見たくて、いい子になろうと背伸びして……
 ママは、パパとたまに会えば喧嘩ばかりして……
 ママがいなくなって、寂しかったけれど、でも、ちょっとだけホッとした。そんな自分がイヤで、また、悲しくなった。

「ママね、やっと、自分が好きになれた」
「ママ……」
「香奈は香奈が好き?」
「うん……」
「生きる基本は、きっとそれだよね」
「でも、ママも好きだよ。パパも、おばあちゃんも……」
「分かってる。でもね、自分よりもパパのため、ママのため、なんて思っちゃダメだよ。自分を我慢していたら、きっと、それは好きなんかじゃなくて、いい子に見られたい嘘つき香奈だからね」
「うん……」
「ママは、パパのため、新庄家のためって頑張っていたつもりだったけれど、でも、きっと、新庄家の関係者によく見られたいだけの嘘つきママだったんだと思う。だから、無理してたんだと思うのよ。ママ、壊れるのも無理ないよね」
 ママはちょっと遠くを見ながら、小さく笑って、冷めかけたココアをすすった。
 
 私は、溶けてしまった、生クリームをいじりながら、屈託なく笑う恋人のことを思っていた。いや、恋人なんて、まだまだ言えない。
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