私は猫
「素直な子なんですよ…若いのにしっかりしてるし。最近じゃあヒナ目当てのお客さんも増えてるんですよ」
ママは自慢気に言って、私にウィンクした。
「せやなぁ。オレなん惚れてまいそうや」
「そんなこと」
「ま、ヒナちゃんなんこないなオッサンより若い方がええやろ」
「南さん、今いくつでしたっけ」
ママが私にお茶を差し出して南さんに質問した。
「もうすぐ30や。はよ落ち着かんとなぁ…はは」
「あらあら」
クスクス笑うママと南さん。
「ヒナちゃんはいくつなん」
「21です」
年齢を偽っているのも、ここで働くため。ママからのいいつけだった。
「若いなぁ~!うらやましいこっちゃ」
「南さんみたいな大人の男性って憧れます」
「ははは!よいしょも上手いやなぁ、ヒナちゃんは。ほんなら、店開けてぇやママ。ヒナちゃん指名したるよ」
「はい分かりましたよ。ヒナ、着替えてらっしゃい」
「ありがとうございます。じゃあ、一旦戻って、ちゃんと支度してきますので」
私は椅子を引き、そこから降りて南さんに小さくお辞儀をした。
「楽しみにしとるで~」
くいっとお酒を飲み干して笑う南さんはまたママと話をし始めた。
なんだか新鮮で久しぶりにわくわくしている私。
そんな私に私自身が驚いている。
今まで、特にここで働き初めてからは
相手に好かれること、懐に入り込むことを上手くやるようにしてきた。
同時にそこに感情を入れないようにすることも。
情というものは厄介だから。
多分、ママは私がこういう風に考えていることは知ってて「ヒナはしっかりしてる」と言ったはず。
「……はっ」
早く着替えて、行かなきゃ。
一瞬脳裏によぎった感情を流した。
なんだろう、この鼓動が早まる感じは…。
私はロッカーから着物を取り出し着付けを始めた。
今では着物も1人で着れるようになった。
髪を結わえ、化粧をし、体に着物をまとう。
「お待たせいたしました」
一匹の猫として。